この7月1日に仙台で開催される、形成外科医が運営する美容外科学会で話をさせてもらうが、その要旨をご紹介しましょう。
形成外科医にとって「再建と美容は車の両輪」、という言い方がよくされます。
本当にそうでしょうか?
まず、再建と美容に線を引くことは可能か、という疑問です。これは再建を復元と考えるからで、外傷で失われた鼻を再建する場合、私なら患者と相談の上、本人の喜ぶような立派な鼻、つまり美しい鼻を目指すでしょう。
再建と美容と分けるのは、「醜形の原因」が外傷、腫瘍などの病的なものか、生まれつきなのかだけの違いで、目的は「美」にあります。
そして手段、つまり「手術方法」も再建と美容で異なることはない。
ということを前置きとして、医師にとって美容外科の魅力の最たるものは、患者の希望をくみ取り、美しく自然な形に仕上げる「造形の楽しさ」にあると申し上げたい。
鼻を例にとれば、数ミリ、1度、2度の角度を変えただけで「決まった」という感じを得た場合の達成感。これこそ何物にも代えがたい魅力といえます。
その反面、魔力というか落とし穴もあります。
まず自由診療のため、とかく「イージー・マネー」としか捉えられない。
また、良くも悪くもリスクを冒したくないので、臆病になる。新しいことに挑戦しなくなる。
もちろん、怖さを知らない素人美容外科医が、無茶苦茶なことをやらかすのも問題ですが。
また、美容の目的は究極はセックス・アピールにつながります。エロスを裏側からメスでマニピュレートしているうちに、倫理観が曖昧になり身を滅ぼすものも過去にありました。
そういうわけで美容外科に関わる医師には、美的感覚の他に、患者とのコミューニケーションの能力、厳しい倫理観が再建外科以上に要求されます。
こうして再建外科が美容外科の基盤として必要な反面、美容外科の経験が再建外科医をさらに洗練されたものにすると僕は信じています。
[アンチエイジングブログ! 2017年6月4日より]
北里大学名誉教授
アンチエイジング医師団代表
NPO法人 アンチエイジングネットワーク理事長
NPO法人 創傷治癒センター理事長
医療法人社団 ウィメンズヘルスクリニック東京 名誉院長