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8月5日:転移癌の包括的遺伝子解析(Natureオンライン掲載論文)

癌の進展で最も恐ろしいのは転移の発生だ。癌のステージも、リンパ節、他臓器への転移があるかどうかを基盤に決められている。

数年前までトップジャーナルを賑わせたガンのゲノム解析も最近は一巡して落ち着いていた印象があったが、そろそろ第二ラウンドとして、この恐ろしい転移についてゲノムから攻めた良い研究が見られるようになってきた。例えば1ヶ月前にこのブログで紹介した大腸癌のリンパ節転移と他臓器転移は異なる起源を持っている可能性を示す論文がその例だろう。(http://aasj.jp/news/watch/7123

今日紹介するミシガン大学からの論文は転移病巣をバイオプシーで集めて、エクソームと発現RNAの解析を地道に行った研究だが、臨床で転移ガンの治療方針を立てる時の遺伝子解析の重要性を強調した研究でNatureにオンライン掲載されている。

研究では最終的に500例の転移巣について、120Xというかなり徹底したエクソーム解析と、転移巣の遺伝子発現を調べる目的でのRNA-seqを行っている。転移巣では平均6割の細胞がガン細胞で、残りは間質や浸潤細胞が占める。このおかげで、ガンだけの情報ではなく、ガンに対する情報も拾いだすことができる。ただこの研究ではリンパ節転移も、他臓器転移も同じように扱っており、解釈には注意が必要だと思う。

ガンのゲノム解析でまず調べるのが、ガン化に関わると考えられる突然変異で、うまくいくと変異分子を標的とした治療薬が見つかるかもしれない。残念ながらこの研究では、この点で新しい進展は得られず(ここまでガンゲノム研究が進むと当然の話だが)、これまで知られているドライバー変異、あるいはガン抑制遺伝子変異がリストされている。とはいえ、エクソーム検査はガン診療のイロハと言っていいだろう。

驚いたのは転移ガンの患者さんのなんと12%が、ガンに関わる遺伝子変異を生まれつき持っている点だ。特に、DNA修復に関わる遺伝子の突然変異が多い。もちろん変異は片方に止まっているが、両方の染色体で変異が重なる確率はグンと上昇し、その結果修復酵素が欠損して変異発生が促進し、転移が起こりやすくなる。ガンだけでなく、個人個人のゲノム検査でリスクを把握しておくことの重要性がよくわかる。転移が見つかってからでもこの点を調べる意味は大きいだろう。

転移の過程で、染色体の大きな変化が起こり、遺伝子同士が合体する融合遺伝子が生まれる確率が上がる。この研究では、RNA-seqにより遺伝子発現を調べることで、融合遺伝子の性質を特定できる可能性が高いことを示唆している。他にも、転移ガンでは元のガンの性質は残しているが、元の性質がだんだん薄まって、期限のわかりにくい細胞へと変化していることも示している。今後、リンパ節と他臓器変異に分けてさらに分類することは重要だろう。残念ながらこれらの検査ですぐに新しい治療方針を出せるかは疑問だ。

この研究の最大のハイライトは遺伝子発現検査により、ガンだけでなく、ガンの周りの免疫反応がかなり正確に把握できる点で、エクソームで変異数が多く、またDNA修復異常が特定され、その上でガンのPD-L1やHLAの発現が高く、キラーT細胞の反応が確かめられる患者さんでは、チェックポイント治療の効果が期待されることが明らかになっている。さらに、ケースによっては反応するT細胞の抗原受容体まで調べることができている。

バイオプシーからこれだけ多くの情報が得られることを示した地道な研究で、転移ガンの治療に今後大きな指針になるように思う。

[NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ) 論文ウォッチ 2017年8月5日より転載]

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