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ジェスチャーと言葉を統合する領域(Journal of Neuroscienceオンライン版掲載論文)

   言語はコミュニケーションのために誕生したと思っている。と言っても、人間特有の高次なコミュニケーションが言語を介してしか出来ないわけではない。

   おそらく最初は、ジェスチャーが中心だったかもしれない。あるいは、Mithenが提案する、一つの長い音楽的シラブルで相手に意思を伝えていたのかもしれない。実際、自発的な言葉を話す前の赤ちゃんで、同じようにポインティングや長いシラブルの音を使って命令しているのを見ることができる。

   いずれにせよ、言語は最後の最後に現れるコミュニケーション手段といえるだろう。おそらく言語が誕生して以来現在まで、私たちは言語を話すとき自然にジェチャーを交えるのが当たり前になっている。

   話す方は当然このジェスチャーと言葉を自然に脳内で統合されて表現しているが、聞き手の側もそれぞれを独立に受け取るわけではなく、統合されたものとして理解している。相手のジェスチャーと言葉を脳のどこで統合させて理解しているのか、明確ではなかった。今日紹介する英国ハル大学からの論文はこの問題を、経頭蓋脳操作を用いて明らかにしようとした研究でJournal of Neuroscienceオンライン版に掲載された。タイトルは「Transcranial magnetic stimulation over left inferior frontal and posterior temporal cortex disrupts gesture-speech integration(左下前頭皮質及び側頭皮質の経頭蓋磁場刺激によりジェスチャーと言葉の統合が障害される)」だ。

   この研究では、ジェスチャーと言葉を別々に収録して、ジェスチャーで表現されている内容と、聞こえる言葉の組み合わせが、一致している場合、意味的に食い違っている場合、そして身振りをしている人と、言葉を発している人の性別が異なっている場合など、様々な組み合わせで被験者に視聴させ、話しているのが女性か、男性かを答えるというややこしい課題を使っている。

   もう少し説明しよう。ジェスチャーを見ないで、言葉だけ聞けば、普通男が話しているのか女が話しているのかすぐ判断できる。しかし、これにジェスチャーを同時に見ていると、もし言葉と全く異なる内容だったら、戸惑って判断が遅れる。同じように男の声なのに、女の人のジェスチャーの場合も同じような戸惑いが起こる。

   このジェスチャーを見ることで戸惑う状態が、ジェスチャーと言葉を統合している脳領域の機能を抑えると、連合が外れるため戸惑いがなくなるかどうかを調べたのがこの論文だ。

   この研究では頭蓋の外から電磁波を照射するTMSを用いて脳の機能を抑制している。結果は期待通りで、左下前頭皮質や側頭皮質に経頭蓋電磁波照射を行った後、この課題を行わせると、ジェスチャーと言葉の意味が食い違っていても戸惑いがなくなる。一方、話している声と、ジェスチャーを行っている体の性別が食い違っている場合は、この領域を抑制しても戸惑いは残る。すなわちジェスチャーと言葉の意味の統合を行っている脳領域を、初めてジェスチャーと言葉を統合する脳領域を特定したと結論している。

   実験はこれだけだが、私たちの言語を考えるとき重要な発見だと思うと同時に、非侵襲的脳操作の利用がますます拡大していることを実感する。

   ところが、先週Nature Neuroscienceに発表されたチューリッヒ大学からの総説(Polania et al, Studying and modifying brain function with non-invasive brain stimulation(非侵襲的脳刺激による脳機能のの研究と操作)、Nature Neuroscience in press)を読んで、経頭蓋操作研究は、この研究が少し乱暴すぎることも理解したので少し触れておく。

   この総説では、電磁波照射、電流による刺激、random noise stimulation、さらにはより深い領域を刺激する方法など、続々非侵襲的脳操作の新しい方法が開発されていることが紹介されている。ただ、個別の神経細胞を刺激するものではないため、様々な機能の神経が固まって存在する脳では、興奮状態をモニターする方法と常に組み合わせて使わないと、操作が期待通り適切に行われたかどうか信頼できないことが多いようだ。すなわち、行動実験と経頭蓋操作だけを組み合わせただけの研究は慎むべきと注意を促している。

   まさにこの論文はこの悪い例に当てはまることになり、面白いとはいえ、そのまま鵜呑みにするのは少し待った方が良さそうだ。

[NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ) 論文ウォッチ 2018年1月28日より転載]

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