がんの緩和ケアが生存を延ばす 佐々木 治一郎先生(北里大学病院集学的がん診療センター長)

がんの緩和ケアが生存を延ばす 佐々木 治一郎先生(北里大学病院集学的がん診療センター長) Dr. 注目

日本人の2人に1人はがんにかかるといわれています。がん治療を受ける患者のQOL(生活の質)向上をはかるためには、つらさを和らげる「緩和ケア」が欠かせません。
北里大学臨床腫瘍学教授で集学的がん診療センター長の佐々木治一郎先生に、がん治療における緩和ケアについて話を聞きました。

塩谷 以前、日本では「がんは告知しない」のが当たり前でしたが、今はどうですか。

佐々木 「告知する」のが当たり前になりました。がん患者会の方々と話すと、皆さん「告知をしない医者は信用できない」とおっしゃいますから、医者も患者も意識が変わってきていると思います。

塩谷 それは大きな変化ですね。でも告知された時は、やはりみなさんショックを受けるでしょう。

佐々木 そうですね。全員に共通して言えるのは「なんで自分が?」と思うことです。日本人の2人に1人はがんになるといわれていて、男性のがん死亡数1位である肺がんの7割はタバコが原因だとわかっているのに、喫煙者でも本人は「まさか」というくらい他人ごとなんです。また、告知が当たり前になっても、ご家族からは「どうして本人に告知したのか。やめてほしかった」と苦情を受けるケースがまだあると聞きます。
日本人のがん罹患率は増加し続けていますが、治療法が進歩し、選択肢も増えています。患者が自分の病気と向き合い、医師と同じ目標に向かって共に治療していくことが大切です。

がんや緩和ケアをもっと知って

塩谷 これからは、社会全体でがんの知識をさらに高めるような教育が必要ですね。

佐々木 今年度、文部科学省は「がん教育」の全国展開をめざしています。学習指導要領でも、中学校の保健分野でがんを取り扱うことが決まりましたから、今後は拠点病院の医師やメディカルスタッフ、がん経験者の方々が子どもたちに教えることも増えるでしょう。

塩谷 治療法が進歩して、がんは死に直結する病気ではなく、場合によっては共存していくことも増えました。その中で、早期からの緩和ケアが必要とされていると聞きました。

佐々木 そのとおりです。2007年にがん対策基本法が施行されてから、緩和ケアは「がんと診断されたときから始める、痛みを和らげる治療法」だと認知されてきましたが、まだ「緩和ケア=終末期ケア」と感じる方が多くいらっしゃいます。

塩谷 そのイメージを払しょくするためにも、まずは、がんに関わっている医師全員が緩和ケアのことをきちんと知っておくべきですね。

佐々木 全国に約400か所ある、がん診療連携拠点病院では、がんに携わる全ての医師が緩和ケアの研修を受けることになっています。実は大学病院の医師の研修の受講率が低く、改善策として私が勤める北里大学病院では2年目の研修医全員に研修を受けてもらうことになりました。

塩谷 もう60年前になりますが、僕がアメリカにいた頃はパリアティブケア(緩和ケア)という言葉が使われ始め、「ペインコントロール(疼痛管理)」がメインになっていました。今はどうですか。

本当のニーズは心のケアにある

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佐々木 以前はペインコントロール中心でしたが、最近は本当のニーズは心理的なケアにあると言われています。そこで壁になったのは医師のコミュニケーションスキルでした。
日本には医師が患者に「悪い知らせ」を伝える技術を学んだり、患者本人の意向を尊重して、治療法を選択していけるように対話するトレーニングを受ける機会がありませんでした。そこで、2007年に日本サイコオンコロジー学会と日本緩和医療学会がコミュニケーション技術研修会(CST)を発足し、ようやくがんを告知するときの問題点や家族への配慮を学ぶことができるようになったのです。

塩谷 がん患者が一番恐れるのは、痛みや苦しみよりも医師から見放されることだといいますが、それもコミュニケーション次第ですよね。

佐々木 その通りです。医師と患者のコミュニケーションが取れていて、信頼関係が築けているかどうかで、同じことを言っていても患者さんの受け止め方はずいぶんと違ってきます。
6月に日本緩和医療学会があり、がん治療医と緩和ケア医の2人主治医制についても議論されました。2者による診察が重なる期間をもうけ、お互いが尊重し合うことで患者も自分が望む治療法を選択しやすくなります。「早期の緩和ケアが生存を延ばす」と言われていますが、その通りで、今後は2人主治医制も考えていく必要があります。

塩谷 ほかにがん治療や緩和ケア発展のために必要なことは?

佐々木 新たな発見につながる、臓器も分野も超えた研究の情報交換の場が必要です。
また、がん医療の発展には、サバイバーの方々の力も大きいです。私は患者会の方々と話す機会も多いですが、緩和ケアで「自分らしく過ごせるように」と言われるけれど、1日1日の生活が精いっぱいで、何が「自分らしく」なのかわからなくて戸惑うという声をよく聞きます。ですから、これからは、自分らしく生きるとは、どういうことかを一緒に考えられるようなサポートも必要だと思っています。

医師・専門家が監修「Aging Style」

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