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最近の自閉症研究まとめ(5月22日号 JAMA Psychiatry掲載総説)

今日、明日と自閉症についての総説や論文を紹介したい。最初はJAMA Psychiatryに掲載された総説で、自閉症研究の現状をコンパクトにまとめている。コロンビア大学、NY自閉症研究センター、やエール大学の専門家が書いている。タイトルは「The emerging clinical neuroscience of autism spectrum disorder (新しく現れてきた自閉症スペクトラムの臨床神経科学)」だ。

現役を退いてすでに5年を超えたが、分野を問わず論文を読んでいて実感するのが、自閉症スペクトラム(ASD)についての研究の進展だ。私が門外漢であるためより興味を惹かれることもあるが、多くのテクノロジーが集められて研究が進んでいるアクティブな領域であることは間違いない。ただ、実際の治療に携わる医師や心理士、教育者は、なかなか最新の研究をフォローするだけの余裕がないと思う。そんな人たちにわかりやすく最近の研究を紹介したのがこの総説だ。もちろん、一般の研究者にとっても、神経科学からASDの輪郭を掴む目的には良い総説だと思う。

ASDは症状も、原因も極めて多様な病気で、その数も米国では1−2%と驚くべき数に達している。重要なのは多様性にもかかわらずASDとしてまとめられる症状を共有していることだ。。しかし、このことは、ASDと診断して満足してしまうと、多様性を見失い治療の可能性を失う事すらありうることを意味する。この総説では冒頭に16p11.2欠失症候群とASDの併発している症例を例にあげ、生物学的原因を丹念に調べれば、この遺伝的変化に認可されているリスペリドンやアリピラゾールによる治療も可能であることを強調し、ASDの生物学についての知識の重要性を説いている。その上で、1)遺伝要因、2)環境要因、3)脳イメージ、4)疾患モデルについてまとめている。

1)遺伝要因
一卵性双生児で発症の一致率が50−80%、兄弟では25%という数字は、ASDが多様であっても特定の遺伝子の組み合わせを反映した状態であることがわかる。このことから、遺伝的変異をゲノム全体について特定できる新しいゲノムテクノロジー(マイクロアレー、エクソーム解析、全ゲノム解析)に大きな期待が集まり、多くの研究が行われた。

この結果、多くの神経機能に直接関わる分子や、その分子の発現に関わる分子の変異(点突然変異、欠失、重複)などがASDの発症に関わることがわかった。ただ問題は、200近い大きな領域にわたる遺伝子変異、一塩基レベルの変異に至っては何百もの変異がASDと相関することがわかり、単純な分子レベルの因果性を想定することができない点だ。すなわち、発症メカニズムも極めて多様だ。

このようにASDを、遺伝性が高いが、分子メカニズムが多様である状態として理解すると、ゲノム検査の重要性は明らかで、これによって初めてそれぞれのゲノムに応じた治療が可能になる。てんかんや知能の低下がある場合はいうに及ばす、ASDの疑いがある場合はほぼ全員にゲノム検査が行われることが必要になる。

2)環境要因
一卵性双生児の場合でも発症が一致しないことは、生前生後の環境要因も無視できないことを示している。この隙間に、「はしかワクチンが自閉症を誘発する」というWakefieldの世紀の大捏造が生まれたわけだが、例えば早産でASDのリスクが高まることは脳発生に影響を及ぼすあらゆる外的要因がASDの誘因になることを意味している。事実、科学的な疫学調査で、早産、低酸素、虚血、母親の肥満、糖尿など内的要因がASDリスクを高めることが証明されている。外的要因のリストも膨大になっている。ただ明らかに神経細胞の発達に影響する薬剤を除くと、内因性の要因と比べて因果性の特定が難しく、今後iPS由来の神経細胞などを用いた研究で因果性を調べることが必要になる。

3)脳のイメージング
MRIによる脳領域間の結合の検査を始め、脳イメージングのテクノロジーは急速に発展し、これまで測定が難しかった幼児でも検査が可能になっている。この結果、脳内の変化の多くが生まれる前発達期に起こっていることがわかってきた。このおかげで、場合によっては6ヶ月という速さで診断する可能性も生まれている。

イメージングで明らかになった最も重要な発見は、ASDの子供は生後6ヶ月から12ヶ月にかけて脳皮質が拡大することで、シナプスの剪定の低下などが議論されているが、今後の研究が待たれる。同じように、2−4歳までの発達期でも、扁桃体をはじめ社会性に関わる様々な領域が拡大するとともに、各領域の結合性は逆に低下する場合が多い。一方、皮質下の神経結合は高まっているという報告があり、局所的回路が高まる一方、広い領域の結合性が低下するのがASDの特徴ではないかと考えられている。ただ、この検査でASDを明確に診断できるかというと、脳の構造の多様性は大きく、イメージングだけで診断するのはまだ難しいことも理解する必要があるだろう。

4)疾患モデル
コンピュータで再構成するインシリコのバーチャルモデルから試験管内まで、様々な疾患モデルが開発されてきた。特に遺伝的要因によるASDモデル動物は、脆弱性X、Rett症候群、MECP2重複症など多くが作成され、研究に用いられている。最近では、MECP2欠損のサルのモデルの開発も可能になっている。従ってASDを多様な症状の集まりとして考える場合、それぞれの症状に対応する動物モデルは今後も役に立つと思われる。特に、薬剤や遺伝子治療の可能性を試すときには動物モデルは必須で、動物の脳は人の脳とは異なると片付けるのは問題がある。

もう一つ重要な領域は、インフォーマティックスで、膨大な遺伝子データと、症状や、イメージング、さらにはiPS由来の神経細胞反応性などを統合した人工知能を開発すべく、研究が加速している。

以上が内容だが、この総説のメッセージは、Kannerが自閉症を定義した時代には考えられなかった、ASDの生物学が急速に進んでいることに尽きる。ここに書かれていることは、私のブログでも数多く紹介してきたが、本当によくまとまっているので、この分野に関わる方にぜひ読んでほしい総説だと思う。

[NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ) 論文ウォッチ

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