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最期まで幸せであるためのケアとは何か?(前編)
真田弘美先生(東京大学 老年看護学・創傷看護学)

世界に先駆け寿命が延び、高齢化が進む日本。看護や介護にも新たな課題も出てきています。死を迎えるその時までいかにその人らしく幸せに生きるかについて、老年看護学・創傷看護学を専門にしている東京大学の真田弘美教授にうかがいました。高齢者のQOLを高めるために今、必要とされているものは何か。老年看護の実際とフィロソフィ(哲学)とは?
今の日本で年を重ね生きていくことについて、前後編2回に分けて考えます。

真田弘美先生
真田弘美先生

塩谷 真田先生は聖路加大学ご出身ですが、日野原重明先生(故人)のもとで学ばれたそうですね。

真田 はい。日野原先生からは、看護学、医学のほかにも多くのことを教わりました。
一番印象に残っているのは、「医療者になるということは、生きることと亡くなることへの、自分の考えをしっかり持つことが大事」という言葉です。ある日、授業で「あなたにとって生きることと、死ぬことを絵に描いてみてください」と指示されました。みんな、死のイメージは、真っ黒に塗りつぶしてみたり、生きることは、ダイヤモンドを描いてみたり、いろいろな絵を描いていました。
その絵を見て、日野原先生は、「生と死は二極化するものではなく、プロセスだ」とおっしゃいました。
当時18歳だった私には、死は恐ろしいものでしたし、人にどういうことか聞くことすら、タブーだと思っていたので、感動したのを覚えています。

塩谷 すばらしい授業ですね。真田先生の意識もそれから変わったのでは?

真田 そうなんです。看護師として常に死と向かい合わせの方々と接するときに、その人が最期まで幸せであるためのケアができる。それが、究極の看護の仕事と考えるようになりました。
そして、最初に減らしたいと思ったのが「褥瘡(じょくそう)」、つまり床ずれです。縟瘡は、本人は痛みを感じないと言われますが、そこから病気に感染して亡くなっていく方もいます。
縟瘡を減らすことが、苦しんで亡くなる人を減らすことにつながると考えました。

増える「スキン−テア」、虐待との誤解も

塩谷 看護学とはどのような学問なのでしょう。

真田 一言でいえば、病気を診断・治療する方法の開発が医学ならば、看護学は病気で療養を必要とする人に、療養中の生活支援を開発する学問といえます。

塩谷 中でも、老年看護はますます必要とされる分野ですね。内容を具体的に教えていただけますか?

真田 老年看護には、老化の進む中、今健康である人が健康なまま社会生活を営めるような支援と、虚弱な人が依存と自立のバランスをどうとるのかという支援、そして、一人で生活ができなくなってすべて依存しなければならない人への支援があります。その中で、私が力を入れているのは、一人で生活できなくなった方への支援です。
具体的には、寝たきりなどベッドから自力で動けなくなった場合の「寝る、食べる、排泄する」ためのケア技術の開発です。

塩谷 高齢者の介護や看護の現場では、今、スキン−テア(皮膚の創傷)の問題があるそうですね。

真田 近年、ベッド上で生活介助を必要とする高齢者にスキン−テアが頻発し、虐待と間違われるなど、問題は深刻化しています。私は一般の方々にその存在を知ってもらうために、実態調査やケア方法の考案に5年前から取り組んできました。最近うれしかったのは、日経新聞がスキン−テアを取り上げてくれたことです。

塩谷 スキン−テアに注目したのはいつごろからですか。

真田 20年前にアメリカで初めて症例を見たときからです。当時は皮膚が薄くはがれることを「ティッシュペーパースキン」と言っていました。

塩谷 原因は分かっているんですか?

真田 一番は加齢のために皮膚が弱くなることです。オーストラリアでは、それに加えて日光老化が大きな要因となっています。近年、日本人に増えているスキン−テアの原因は、ステロイドの長期使用、ワーファリンなど血液をさらさらにする抗凝固剤の影響が大きいと考えられています。

塩谷 体をよくしようと思って飲む薬の副作用で、肌に影響がでてしまうのですね。対処法としては、薬をやめるしかない?

真田 いえ、やめる必要はないのですが、まずは皮膚に摩擦が加わらないように介助することです。スキン−テアは、医師では予防が難しいです。看護師や介護者などケアする人が、注意しなくてはならないことです。具体的には、皮膚を保湿するほか、体がぶつかりやすい場所をカバーする、医療テープをはがす時の刺激を和らげるなどで予防します。いつも思うのですが、このような加齢による変化が著しい高齢者の幸せは何か考えることがあります。その時に、高齢者への看護(老年看護)のフィロソフィ(哲学)にたどり着きます。(後編に続く)

医師・専門家が監修「Aging Style」

この記事の監修・執筆医師

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