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7月14日:急性骨髄性白血病のリスクを予測する(Natureオンライン掲載論文)

白血病も含めて、ガンは突然変異が積み重なってできることは、現在では専門家だけではなく、一般の人々にも広く知られた現象だと思う。しかし、私自身がこれを実感したのは、広島の放射線影響研究所のレビューに行って、さまざまな症例を見せていただいたときだ。おそらく、この研究所に集められた膨大なサンプルと、年々高齢化が進む被爆者の方々のゲノム検査が行われれば、ガン、特に白血病の発症予測に、我が国でしかできない貢献ができると思う。残念ながら、被爆者の方々のゲノム研究がどれほど進んでいるのか把握できていない。

もちろん、ガン発症予測のためのゲノムコホート研究は世界中で行われている。今日紹介するカナダ・英国を中心とする国際チームからの論文は、ゲノムコホートから白血病予測に役に立つ検査データを探し出し、白血病リスクを正確に予測しようとする研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Prediction of acute myeloid leukaemia risk in healthy individuals (急性骨髄性白血病のリスクを発症前に予測する)」だ。

私のような老人では、生きてきた時間分細胞に突然変異が蓄積しており、さまざまなガンのリスクが高まっている。中でも、毎日自己再生を繰り返している血液幹細胞の白血病と言える急性骨髄性白血病(AML)の発症率は年齢とともに上昇し、65歳以上では骨髄移植治療が難しいため、治療の難しいガンになっている。もし、もっと早い段階で診断ができればなんとか手が打てうるのではと誰もが考える。

この研究では、コホート研究中にAMLを発症した人の、コホート開始時の末梢血のDNAと、それ以外のコホート参加者の末梢血DNAの中から、これまでAMLに関わるとしてリストされている遺伝子群を濃縮した後、低い頻度で存在している変異を十分検出できる方法を用いて比べている。この結果、AMLを発症した人の実に73%の人がAMLにつながる変異を、数年も前から持っていること、また正常の人でもなんと36%が血液中に変異を持って少し増殖が高まっている血液のクローンが存在することがわかる。

初めて聞くと驚くのだが、同じ話は既に何回も報告されている。この研究では、AMLの発症に一つ一つの変異がどう関わるかを詳細に検討し、ゲノムレベルのリスクを計算できるようにした後、これらのリスクを一般的な血液検査結果と相関させられるか、患者さんの電子データを用いて調べている。しかし、誰もが思いつくような白血球数などは、AMLに関わる遺伝子のどれかに変異があって、少数のクローンの増殖が高まっていても、末梢血の白血球数にはほとんど反映されない。色々粘った結果だと思うが、最終的に赤血球の大きの分布の幅(RDW)がAML発症と相関することを発見する。この検査は貧血検査として行われており、考えてみると造血が乱れている指標として使うのはなんの不思議はない。

あとは、さらに大きな検査データのデータベースからAMLを発症した人を抽出し、その人たちのRDWを追跡すると、発症の数年前にRDWが急に増加していることを発見する。あとは、機械学習ソフトを開発して、AML発症一年前に25%の確率で予測可能なAIモデルを完成させている。

話はこれだけで、今後まだまだ診断率を上げる可能性があると思う。最初ゲノム研究かと思って読んだが、実際はゲノムの話が全くなくてもひょっとしたらできたかもしれない仕事だという印象を持った。しかしこれは結果論で、AML発症した人の、発症までの経過をゲノムを通して詳細に調べることの重要性は明らかだ。いずれにせよ、25%のハイリスク群が特定できることで、新しいコホートが行われるだろう。期待したい。

[NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ) 論文ウォッチ

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