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7月22日:腎臓ガンの新しい標的(7月20日号 Science掲載論文)

ガン治療というと免疫がその中心に躍り出た昨今だが、若干心配するのは、免疫の力に目がいきすぎて、ガン本来の生物学がおろそかになることだ。確かに、標的薬を開発してもいつか耐性が出てくると諦めてしまうと、生物学的研究の意欲が削がれる。幸いこれは杞憂のようで、最近は代謝についての研究が多いとは思うが、一般的なガンの生物学の論文は今もトップジャーナルに掲載されている。

今日紹介するノースカロライナ大学からの論文は腎臓ガンの増殖に関わる新しいメカニズムを特定した研究で7月20日Scienceに掲載された。タイトルは「VHL substrate transcription factor ZHX2 as an oncogenic driver in clear cell renal cell carcinoma (VHL基質ZHX2転写因子は腎明細胞ガンの発がんドライバーとして働いている)」だ。

腎臓ガンと言えばVHL分子と言われるぐらい、VHLは7割以上の腎臓ガンで機能が欠損する重要な分子で、ユビキチン化に関わる分子だ。VHLはHIF分子を介して低酸素による遺伝子発現に関わることから、これが欠損すると細胞の低酸素反応がうまくいかなくなるため、腎臓ガンではVEGFを抑制して血管新生を抑える治療が比較的高い効果を示す。とは言え、薬剤抵抗性がほとんどの患者さんで現れる。この研究はHIFとは異なるVHLの基質を特定し、ガンの新しい分子標的として使えないか調べることだ。

即ちVHLに結合する分子を探すことになるが、私自身が最も驚いたのは分子を同定するためにこの研究で採用された方法だ。VHLがprolly-hydroxylation(pOH)を受けたHIFに結合することに注目し、VHLの基質はpOHペプチドによりVHLとの結合を阻害できるはずだと考え、なんと全ゲノムレベルのcDNAライブラリーを700のプールに分け、各プールを全て試験管内で翻訳させ、その時できたタンパク質をS35メチオニンでラベルする。このラベルされたタンパク質とVHLを結合させ、結合が見られたライブラリーの中で、pOHペプチドで結合が抑えられる分子を探索するという、先ず凡人には思いつかないというより、思いたくもない大変なスクリーニングだ。

その結果ついにこれまでも腎臓ガンで発現が高いことが知られていた転写因子ZHX2が特定されている。ご苦労さんと言いたいほどで、まさに遺伝子クローニングがこの研究のハイライトだ。

後は、この分子がVHLの欠損で高まり、VHL低下により発現が抑制され、多くの腎癌で発現が上昇していることを明らかにしている。そして、実際に腎臓がんの増殖に関わることを確認するため、shRNAでノックダウンを行った腎臓ガンで細胞の増殖が低下することを、試験管内およびガンを移植するモデルで確認している。

その上でこの分子がNFκb転写因子のコンポーネントp65と直接結合して、NFkb下流の多くの遺伝子の発現を調節していることを明らかにしている。即ち、この分子はVHLが欠損すると、発現が上がって、NFkbの活性化を促進し、これを通して細胞の増殖に関わることを明らかにしている。

ともかく久し振りに遺伝子クローニングの力仕事の論文を読んだ気がした。ただ、この分子を標的にする薬剤の開発は難しいように思う。しかし、腎臓がんの増殖にNFkbが関わっていることは重要で、免疫的観点から考えても、ガンでインターフェロン活性化をはじめとする自然免疫の刺激と同じことが起こっているように思う。腎臓ガンは他のガンと比べて、特徴的なことが多いが、この論文の結果はこれについても様々なヒントをくれているような気がする。

[NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ) 論文ウォッチ]

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