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8月29日:眼球内に遺伝子導入して視細胞を復活させる(8月23日号Nature掲載論文)

山中iPSが発表される前から、細胞の系統をリプログラムできるという論文は数多く発表されていた。山中iPSにより、転写因子のセットを導入することで実際にエピジェネティックな状態がリプログラムできることが明らかになり、多能性の幹細胞を経ないで直接細胞の系列を変化させるdirect reprogrammingの研究は盛んになった。ただ私が把握している限りで、iPSを越えて臨床応用が見えている方法の開発にはまだまだ時間がかかるように思う。

今日紹介するマウントサイナイ医学校からの論文は、分化のリプログラムの代わりに、抑制されている分化プログラムをもう一度再活性する方法を開発して網膜内にロドプシンを発現する桿細胞を復活させ、視力を回復させようとする、リプログラムというよりプログラムを誘導する研究で、4月23日号のNatureに掲載された。タイトルは「Restoration of vision after de novo genesis of rod photoreceptors in mammalian retinas(哺乳動物の網膜内に新たに誘導した桿細胞により視力を回復させる)」だ。

魚などの脊椎動物では、網膜が成熟した後でも、ミュラーグリア細胞から視細胞を分化させることができるが、哺乳動物ではこの経路が遮断されている。このグループは、これまでの研究でWntシグナルの下流分子βカテニン遺伝子を網膜に導入することで、正式にあるミュラーニューロンを増殖させられることがわかっていた。この研究では、これに続いて桿細胞の発生にかかわる3種類の遺伝子セット(Otx1、Crx、Nrl)を導入することで、桿細胞を誘導できないか調べている。

実際にはアデノ随伴ウイルスベクターにβカテニン遺伝子を繋いで網膜に導入し、2週間してから3種類の遺伝子をやはりアデノ随伴ウイルスで注射するというプロトコルだ。

結果だが、ミュラーグリア細胞のみがこのプロトコルに反応して、最初1回分裂を起こし、その後の3種類の遺伝子の作用で桿細胞まで分化することができる。このプロトコルで網膜全体に、万遍なく一平方ミリメーターあたり800個程度の桿細胞を誘導することができる。すなわち、分化の抑制を外して、もう一度分化させることが出来る。ほとんど異常な増殖はないのも重要で、網膜の構造は保たれる。

問題はこうして誘導した視細胞が機能して視力回復に至るかどうかだ。これを確認するため、桿細胞と錐体細胞ので光刺激を伝達するGnat1, Gnat2の機能が欠損したマウスを用い、このマウス網膜で桿細胞を誘導するとともに桿細胞にGnat1を導入して、桿細胞の機能が回復するか調べている。結果は、正常と比べると強くはないが、桿細胞は光刺激に反応することができ、興奮した桿細胞からのシグナルは網膜のガングリオン細胞で刺激がオン反応とオフ反応へと統合され、そして一時視覚野へとそのシグナルへ伝達することを確認している。

研究はここまでで、視覚がどの程度回復しているのかは評価できていないが、少なくとも神経回路を再構築することが可能であることは示されたと言っていい。現在、視覚に関わる遺伝子の変異に対する遺伝子治療が進んでいるが、今回示された方法を合わせると、より高い効果のある遺伝子治療が可能になるように思える。まだまだ動物実験の段階だが、印象としては遺伝子によるプログラミング法は結構使えそうだという感触を持った。

[NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ) 論文ウォッチ]

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