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9月24日:腸で感じる喜び(10月18日号 Cell掲載論文)

先日の論文紹介をもう一度まとめると、上部消化管の上皮細胞内に存在する腸管内分泌細胞の一部が迷走神経節細胞末端と直接シナプス接合をもち、グルコースやショ糖(分解されてグルコースになる)に反応し、直接脳へ短い間隔で刺激を伝達するというものだった。ただこの論文を読んで、このような回路が存在する意味がもう一つピンと来ないと私は結んでしまった。というのも、腹からの感覚は、良い感覚というのがない。満腹でも膨満感だし、腹が気になる場合はすべていい感覚ではない。お腹が快調という場合は、要するにお腹を意識していない場合を指す。と考えると、これほど速い反応をわざわざ開発しても、あまり意味がないように感じたからだ。 こんな疑問を出してすぐ、昨日論文を読んでいると、迷走神経回路の中にご褒美回路を直接刺激するシステムが存在することを示し、昨日の私の疑問を少しは解いてくれる論文に出会ったので、今日続けて紹介することにした。タイトルは「A Neural Circuit for Gut-Induced Reward (腸管によって誘導されるご褒美神経回路)」で、少し先だが10月18日号のCellに掲載されることになっている。

昨日の研究と異なり、この研究は迷走神経を刺激する入り口にはほとんど関心がない。しかし、支配領域との重なりなどから考えると、間違いなく昨日対象となった迷走神経節細胞とオーバーラップすることは間違いない。

さてこの研究では、上部消化管の迷走神経節細胞(右側を走る迷走神経節に対応する)の刺激が、満足、あるいは忌避感情を直接刺激するかどうかを検証することから始めている。即ち右側迷走神経節細胞を光遺伝学を用いて刺激出来るように改変し、光を照射する実験を行うと、マウスは光刺激が与えられる場所に滞在するようになる。すなわち、迷走神経は中毒につながる快感を誘導できることを示している。

あとはこのような快感を誘導するのは上部消化管を支配する迷走神経節細胞だけであること、そしてこの右側を走る迷走神経は傍小脳脚核を介して黒質と繋がり、ドーパミンを線条体に分泌させる典型的ご褒美回路を刺激することを示している。

例によって研究はウイルスベクターを用いた局所注入と、遺伝子改変マウスを数多く組合わせた複雑な実験系になっているが、結果は上記のようにまとめてしまっていいいと思える。

ではこ上部消化管を支配する迷走神経節細胞が快感を伝えることの生物学的意味はなんなんだろう?すなわち、食の刺激が快感として覚えられる必要はどこにあるのか?筆者らは、満足したときにご褒美回路が刺激され、快感が記憶されることで、食にありつける場所が記憶される可能性を強調している。言われてみれば、食事を求めてさまよう必要のない私たちには考えられない重要な機能だと思う。昨日今日と2編の論文を読んで、私達が忘れている、食べれたことを直接感じ、喜ぶ脳回路の重要性が理解出来た。

[NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ) 論文ウォッチ]

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