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10月10日:地中海食による乳腺細菌叢の変化(10月2日号 Cell Reports掲載論文)

体外に直接開いている組織は、必ず細菌感染の可能性がある。腸管は当たり前だが、尿管、感染や皮脂腺など、全て外界に開いた管状構造をとり、常に感染の危険がある。誰もが経験するニキビはその典型だろう。また、当然のように常在細菌も存在し、細菌叢研究が進むとともに、研究の対象になっており、多くの論文が発表されている。

この外界に開いた管状構造のもう一つの典型が乳腺で、母乳を飲む子供の腸内細菌叢への影響を調べる意味で乳腺内の細菌叢研究が行われるようになった。今日紹介する米国ウェークフォレスト大学医学部からの論文は、その中でもかなり変わり種で、猿に地中海食を食べさせたとき乳腺の細菌叢の構成が変化するかどうか調べた研究で10月2日号のCell Reportsに掲載された。タイトルは「Consumption of Mediterranean versus Western Diet Leads to Distinct Mammary Gland Microbiome Populations(地中海食と普通食は異なる乳腺の細菌叢の原因になる)」だ。

変わり種といったのは、体に良いことが示されているオリーブオイル中心の地中海食を30週間(8ヶ月近く)アカゲザルに摂取させ、しかも乳腺組織内の細菌層を調べた徹底性で、おそらくこれが可能な研究所はそう多くないだろう。 また、地中海食など、長期的食習慣の効果を確かめた研究結果は、メカニズムが思い通りに追求できない現象であるため一般紙に登場することは、あまりないが、この点でもこの研究は変わり種だ。しかし、両方の間で大きな違いが示されており、雑誌でも掲載を決めたのだろう。

結果をまとめると、「細菌叢の絶対バクテリア数などでは何の変化も起こらないが、細菌叢の多様性には大きく貢献し、また個々の細菌の数については大きな変化を引き起こす」になる。

個人的に意外に思ったのは、地中海食により、セルロース分解性のルミノコッカスノコッカスが腸でも乳腺でも減少することだ。このようにまだまだ腸内細菌叢の変化を頭のなかで理屈をつけて理解するのは難しい。 中でも最も大きな変化を示すのが、乳酸菌でなんと10倍も数が増える。これまで、乳酸菌が乳がんの予防に効くという論文もあるが、どうして食べた乳酸菌が乳腺に到達するのか説明できていなかった。この研究では、地中海食による腸内での変化が、乳腺の細菌叢の変化を誘導し、回り回って乳がんの予防効果を持つと考えている。腸内で起こる変化を理解しようと、乳腺のメタボロームも調べ、胆汁に含まれる様々なメタボライトが地中海食で上昇することを見出している。すなわち、胆汁成分を分解する腸内の細菌層の変化が、胆汁由来代謝物を介して乳腺細菌叢の変化を誘導するというシナリオだ。結局、食の効果は全て腸内細菌叢を通して起こることになるが、このシナリオの妥当性については直接実験が行われておらず、現象論でとどまっている。 以上が結果で、普通の研究になれた頭から考えると、変わり種としか言いようがない。しかし、薬剤開発と異なり、食の栄養学的評価はそう簡単ではなく、おそらく21世紀の重要な課題と言えるだろう。その意味で、このような変わり種の研究が積み重なることは重要だと思う。

[NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ) 論文ウォッチ]

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