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自閉症スペクトラムの脳活動を捉える(Human Brain Mapping 10月号 掲載論文他)

自閉症スペクトラムはもともと様々な状態が集まった状態を総称しているが、さらに正常・異常と分断せず、ニューロダイバーシティー、脳回路の多様性として連続的に捉えることが普通になってきたが、ASDに見られる共通の症状を多様性という言葉で終わらせる訳にはいかない。その実体を明らかにするためには、あらゆる医学的検査を駆使して違いを明らかにし、治療標的を探す必要がある。また、脳回路の変化を客観的に捉える方法の開発も重要で、MRIを用いて構造変化や脳領域間の結合性の変化がづつ捉えられるようになってきた。しかし、実際に働いている脳について機能的違いを発見することはそう簡単ではない。

今日紹介する2編の論文は、あまりこれまで紹介しなかった脳イメージングを用いてASDの脳変化を明らかにしようとした研究で、10月号のHuman Brain Mappingと10月3日発行のScience Translational Medicineに発表された。

まず最初のハーバード大学がHuman Brain Mapping10月号に発表した論文「 Maturational trajectories of local and long-range functional connectivity in autism during face processing (自閉症の人が顔のイメージを処理するときに起こる局所的およびび長いレンジの連結性の成長での軌跡)」から紹介していこう。

この論文では怒った顔を見たときに活性化される脳回路を自閉症と正常で、思春期から成人まで年齢を追って比較しこの回路が変化するかどうかを調べている。もちろん、思春期から成人まで、私たちの脳回路は大きく変化することが知られている。

問題は怒った顔を見た時の回路の活性をどう測るかだが、この研究では脳磁図といわれる方法で、脳神経細胞内の電気活動により誘発される磁場の変化を測定している。この方法で測れる電気活動は脳波で測る活動とは違うが、磁場は頭蓋骨に邪魔されないので、高い空間分析能をを持っている。さまざまな場所で磁場を計測し、その中で活動が同期している領域同士は神経結合があると考えられるため、この方法で知りたい領域同士が神経的に連結しているか明らかにすることができる。

この研究では顔の認知に関わる紡錘状回顔領域(FFA)内の神経連結、およびこの認識領域をトップダウンで支配していることが知られている、楔前部(PC)、前帯状皮質(ACC)および下前頭回(IFG)との連結を活動周期の同期性を指標に算定している。

さて結果だが驚くことに、怒った顔の認識に関わるこれらの回路は、思春期以前では自閉症も、一般児もほとんど変わりが無い。しかし、一般児では成人するに従って、これらの回路の結びつきが強まるのに、自閉症では逆に弱まる傾向にあることがわかった。さらに、自閉症の社会性に関わる症状の強さとこれらの領域の神経結合の強さの相関性は年齢が高まるにつれ、よりはっきりすることも分かった。

以上のことは、この怒った顔への反応を調べる課題に関する限り、自閉症での神経回路の変化は、思春期から成人への過程で起こる神経回路の成熟に大きな影響を及ぼしていることが分かる。実際、変態と同じで、発生時期と同じように思春期から成人にかけて脳も大きな変化を示す。とすると、自閉症の治療時期は、決して幼児期だけではなく、思春期からも重要であることがわかる。

もう一つのUniversity of Londonからの論文は成人した自閉症でのGABA受容体の量をPETで測定した研究で、タイトルは「GABA A receptor availability is not altered in adults with autism spectrum disorder or in mouse models(脳内のフリーのGABAa 受容体の数は自閉症スペクトラムの成人およびマウスモデルともに正常と変わらない)」だ。

これまでの研究で、自閉症ではグルタミン酸受容体を介する神経興奮が高まっており、これは神経活動を抑えるGABAaニューロンの活性が低下しているからではと考えられていた。

この研究では、知能正常で、てんかん発作のないASDの成人を選んで、脳内のGABAa受容体の数を、炭素11同位元素でラベルした2種類のGABAa受容体リガンドで計測している。

おそらく、GABAa受容体の数が減っていることを期待したと思うが、残念ながら使った2種類のリガンドで検出される受容体の数は正常とまったく差がないという結果だ。ただし、PMPテストと呼ばれる極めてコントラストの高い像を追跡するテスト(興奮性ニューロンと抑制性ニューロンのバランスを機能的に計測できる)を行うと、明らかにGABAaニューロンの活性が低下していることが推定されるので、受容体レベルではなく、GABAの分泌や、シグナル経路の異常がある可能性は高いと考えられる。受容体が正常なら、介入の手段が他にあるかもしれない。

いずれも、では大きな進歩があったかと問われると、難しいところだが、機能的脳回路に関しても、少しづつ研究が進んで、社会性の障害などを治療するための方法へと近づいているのではと期待している。

[NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ) 論文ウォッチ 2018年10月17日より転載]

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