回る回るよ、大麻を巡る「へルタースケルター」

健康長寿で行こう!

先週末に合成麻薬MDMAの所持容疑で逮捕された女優の沢尻エリカ。今週のテレビやネットはこの話題で持ちきりだった……と書くと、いかにも年寄りが若い世代に迎合しようしているように思われるかもしれないが、実は彼女は僕にとって馴染みの深い女優。

といっても、面識や共通の知人といった話ではない。僕が美容医療などの講演やワークショップをする時はいつも、彼女の主演映画「へルタースケルター」のスライドを使っているというだけのことだ。この映画は美の呪縛、美貌の格差やヒエラルキーというテーマには格好の題材。グロテスクな映像表現が多い映画ではあるが、公開から7年経った今でもこの映画を超える「教材」にはお目にかかっていない。

ちなみに「へルタースケルター」とは英語で「しっちゃかめっちゃか」な混乱状態を意味する。これとは別に、欧米の遊園地などで見かける、らせん状の滑り台が外側に巻き付いた塔のようなアトラクションもhelter-skelterと呼ばれる。なんとも暗示的な題名だ。

この映画や美の呪縛の話はまた別の機会に譲るとして、今回は大麻の話。

「〇〇大麻」、「大麻由来の〇〇」などなど

沢尻エリカは逮捕後、MDMAのほかにもコカインやLSD、そして大麻を10年以上前から使っていたことが明らかになった。また、つい数日前に都内では大麻栽培の「師匠」と呼ばれる園芸用品店の経営者が逮捕された。北海道では大量の乾燥大麻を持っていた暴力団幹部数名が逮捕される事件もあった。

近年、欧米では大麻合法化の動きが加速し、日本でもその話題を耳にすることが多くなった。大麻の所持容疑などでの摘発も20代前後の若者を中心に増加傾向と聞く。

この「大麻」という言葉は、時には植物としての大麻草を意味し、時には喫煙や吸引のために加工された乾燥大麻や大麻樹脂などを意味する。後者はいわゆる「嗜好用大麻」と呼ばれるものだ。合法・違法はともかくとして、嗜好品という意味ではタバコやアルコールと同じようなものだ。これとは別に、「医療用大麻」や「産業用大麻」という言葉も最近よく見聞きする。これらはいずれも原材料や用途に関わる名称だが、これが製品の話になると「大麻由来の」という表現が氾濫している。それも、葉、花、茎、根、種のどの部位に由来するかによって主成分や法的な扱いが変わるからややこしい。

実は先月、ひょんなことから日本臨床カンナビノイド学会という医療用大麻研究の学術集会に参加した。またこの学会参加とは関係なかったが、その前後にはアメリカで医療用大麻の研究をしている学者や大麻由来のCBDという成分を使った商品を製造販売する企業の人に会う機会があり、僕は図らずも日米の大麻研究や大麻産業の現状を知ることになった。

アメリカの「へルタースケルター」

「カンナビノイド」というのは大麻草に含まれる100種を超える化学物質の総称だ。主要なものとしてTHCと略して呼ばれるテトラヒドロカンナビノールとCBDと呼ばれるカンナビジオールがある。THCの方は「酩酊感」や「多幸感」などとオブラートに包んだような言葉とともに見かけることが多いが、要はマリファナ使用者を「ハイにさせる」強い精神作用を持つ成分。CBDにはそのような精神作用はないと言われるが、抗炎症や鎮痛、制吐のほか、抗不安や傾眠などの作用がある。

アメリカでは今年から微量の、正確には上限として0.3%までであればTHCを含む大麻草の栽培が全米で合法化された。同じ大麻でもこれはヘンプと呼ばれる産業用大麻で、嗜好用大麻のマリファナとは法的にはっきりと区別されている。これに伴い、さまざまな「ヘンプ由来」のCBD商品が電子タバコやオイルや飲料・菓子などの食品、スキンケア用品として、専門店だけでなく普通のスーパーマーケットやドラッグストアの店頭にも爆発的な勢いで並ぶようになった。その中には必ずしもCBDだけでなくTHCを含むものもあるという。

アメリカの場合、もともと州レベルでは医療用大麻も嗜好用大麻もパッチワークのように州により規制内容が異なっていた。実はTHC含有率が0.3%を超えても「ヘンプ由来」を謳うCBD製品も出回っているようだが、そもそもTHCを多く含むマリファナが合法の州ではそのような製品が問題になるはずもない。医薬品の場合は安全性はもちろん有効性が重要なポイントとなり日本の厚労省に相当するFDAが厳しくコントロールするが、食品の場合、効果や機能性を特に謳っていなければヘンプ由来のCBDオイルや飲料、キャンディーなどは実質的にFDAのコントロールが効かなくなった。連邦政府の省庁間や州政府との間で足並みにかなりの乱れがある一方、企業や消費者の動きの方は早く活発なため、市場全体がかなりの「へルタースケルター」状態のようだ。

ただ、アメリカでは昨年、大麻から抽出されたCBDを含む抗てんかん薬が初の大麻由来の医薬品としてFDAに認可され発売されるなど、カンナビノイドの研究や臨床試験は長年行われてきた。そもそもアメリカは、医学や医療に限らず政治や行政のあらゆる分野で大規模な臨床試験を建国以来やり続けているような国だ。数多くの試みと失敗を繰り返しながらも常に前進や発展を優先することで新しい道を切り開いてきた。大麻問題とはやや性質が異なるが、1920年代から30年代にかけては禁酒法という極端なアルコール規制を行ったことから学んだ教訓もいろいろあるだろう。

翻って日本はどうか。

日本の「へルタースケルター」

日本でも、大麻草の中でTHCを含まないとされる茎や種に由来し、実際にTHCを含まないCBD製品は合法だ。ただ、CBDは葉や花にも含まれている。大麻草の「部位に応じて」大麻を規制するという日本の大麻取締法は昨今欧米で広がる規制緩和の流れの中ではガラパゴス的なものになっており、結果的に医療用大麻までその巻き添えを食う形で臨床試験はもちろん、研究すらできない状況が長らく続いてきた。今年に入りようやく、昨年欧米で発売された前述の抗てんかん薬の臨床試験への道が開けてきた。だがその道のりがこの先何年続き、どこにたどり着くのかは分からない。少なくとも「大麻」という名のもと、医療用大麻に対してまで思考停止のような十把ひとからげの規制を続けることは無理だという判断になったのだろう。

大麻に限らず、薬や「クスリ」を巡る問題は複雑でしっかりとした取り組みが大切だ。人生の「へルタースケルター」を転落する薬物依存者を救い出すことと増やさないこと、そして諸刃の剣のような成分や薬であっても救うことのできる患者を救うための環境や制度を整えること。どちらも重要だ。そのためには政治と行政、医学・医療と産業など各界が連携した慎重かつ大胆で巧みな舵取りが求められる。

その政治と行政はといえば、わずか半年前の「桜を見る会」招待者名簿をシュレッダーにかけてしまったという子供の言い訳のような答弁で大騒ぎになっている。それで済ませようという不届き者たちが主導する「へルタースケルター」な政治と行政に任せて大丈夫なのか。繰り返す失敗やその証拠を「無かったこと」にすることが当たり前になっている様を昭和初期から目の当たりにしている身としてははなはだ心もとないが、たとえ届かなくても声を上げていきたい。

[執筆/編集長 塩谷信幸 北里大学名誉教授、DAA(アンチエイジング医師団)代表]

医師・専門家が監修「Aging Style」

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